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バルタン先生

~ショート・ショート選集『黄金虫の大残酷』より~

担任の教師がバルタン星人だと知った時は俺も腰を抜かした。でもみんなが驚かないのにはもっと驚いた。

「なに言ってるんだ、お前。相手が宇宙人だろうと先生に変わりはないだろう。」

と言うのだからまいったものだ。

「皆さん、私がバルタン星人の加藤です、よろしく。」

そう言って奴は黒板に『加藤』と漢字で書いた。なぜバルタン星人が『加藤』なのか、なぜ日本語があんなにうまいのか、俺には知る術はなかった。

奴は背広姿にネクタイという、いわゆる普通の会社員の服装であった。ただ普通の会社員と違う事といえば、額のV字機関と巨大な光る目、蝉のような口まわりという典型的バルタン星人の顔と、何よりも両腕のカプセル型の大きな鋏(はさみ)であろう。

俺は昔『ウルトラマン』や、その怪獣図鑑を暇さえあれば見て、それこそ大脳の前頭葉にある記憶細胞を使い尽くしてその後、英単語や物理の公式が覚えられなくなってしまうほど読んだので、奴の素性はあらかた分かっている。

たしか・・・・・・それによるとバルタン星人のデータは、

宇宙忍者 バルタン星人

 身長・・・ミクロ~50メートル

 体重・・・0~1万5千トン

 武器・・・白色破壊光線 赤色凍結光線 火炎弾

狂った科学者の実験で故郷の星を失い、R惑星に仮移住する。地球を侵略するため、何度も侵略してくる。瞬間移動、分身術などの超能力を使う。

 

・・・だったはずだ。

こんな危険な宇宙人を、いや、そもそも宇宙人なんかを教師にすること自体間違ってる。文部省は何を考えているんだ。教育委員会は、日教組は、PTAは、一体何をしているんだ。「政府は火星人と~」なんて歌の文句どころじゃない。

俺は事の深刻さを訴えるため、友人や、教師らを相手に説得した。だが、答えは常に「何がおかしいというのだ?宇宙人が教師やって何が悪い。」という旨のものであった。

するとどうやら、この異変に気付いているのは俺だけのようだ。ひょっとすると、あの宇宙人は洗脳電波の様な方法で皆をだまし、我々の知らぬ間に地球制服の計画を画策しているのではあるまいか。

ともすれば、だ。洗脳から逃れているのはどうやら俺だけらしい。もしこの事が奴にばれたりでもすればえらい事になる。だがこのまま指をくわえて征服されるのを待っているのも癪だ。洗脳を受けてない人も俺以外にもいるはずだ。それでも駄目なら、『怪獣退治の専門家』を呼ぶしかない。俺はこの『怪獣退治の専門家』と言うフレーズについ「だはははははは」と爆笑してしまった。授業中突然に笑い出した俺を皆が奇異の目で見つめた。

俺はそんな雰囲気にまた「わはははは」と笑ってしまい、「まずいことになったなあ」と思った。教壇の上でバルタン加藤も「フォフォフォフォフォ」と笑っていた。

とはいえ、加藤先生(とりあえず、当面の間はこう呼ぶことにした)の授業は分かりやすく、他のクラスの生徒から羨ましがられる程であった。彼の担当する教科は物理で、余暇には宇宙の始まりとか、光速を超える宇宙船の原理を説明したりした。さすがは宇宙にその名を知られたバルタン星人である。(地球の科学者はこのことについてどう思うのか?)

しかしうちのクラスの輩にこんな事がわかるはずもなく、

「先生、何言ってるのか分かりませえん。」

「あ、すまん。フォフォフォフォフォ。」

「はははははははは。」

となるのがオチであった。実にアホだ。

と、まあ、ごく普通に、時は流れていった。そんなある日。俺は退屈な英語の授業に眠りそうになっていた。左手で頬杖をつき、半ば眠りに入りそうになっていた。

「ああ、早く加藤先生の授業になればなあ。」

その時俺は、今自分があのバルタン星人に好意を抱きつつあるのを感じ、あわてて目を覚ました。左手を頬から放したときに、つい右手を大きく動かしてしまい、ペンを落としてしまった。

俺はペンを拾おうとして、隣の席の者と、頭をぶつけてしまった。隣の席の者とは、皆口美佳子であった。彼女は「あ、ゴメン。」と一礼し、笑った。

皆口美佳子は例えるなら間違いなく、『クラスで一番かわいい女子』であった。そんな彼女を俺も例外なく『いいなあ』、と思っていたのである。

だが悲しいかな、俺は女の子と話すことがまったくできない男なのだ。何故って、そうなのだから仕方がないだろう。

次の授業は物理だった。俺が机の中から教科書を出しているとき、突然隣の席の『クラスで一番かわいい女子』が話しかけてきた。「ねえ、あなたは変に思わないの?」と。

俺の目は彼女の方を見たまま動けなくなってしまった。その間に俺の心拍数はどんどん上昇し、呼吸は荒くなり、手は指の先まで熱くなった。これでは変態だ。

「ねえ、聞いてる?」

「え、あ、ああ、何?」

「あの、バルタン星人のことを・・・・・・」

そこまで聞いて、俺の緊張は一気に解けた。なんという僥倖(ぎょうこう)だ。まだ洗脳を受けていない者が残っていたとは。それがこんな近くのこんなそんなああ。俺は声を低めて言う。

「ああ、僕も変だと思ってた。何で宇宙人が学校の教師をやっているのか、何故周りがそれに気付かないのか、ずっと不思議だった。」

それを聞いて彼女は笑顔で答えた。俺は思った。「こいつ、俺に気があるな。」しかし何と実に勝手な思い込みだろう。

しかし、彼女と話したのはそれきりであった。恐らく彼女は自分と同じ考えをしている者を見つけて安心したのだろう。あるいは、俺が消極的なので話しにくいのかもしれない。それは、大いにありうる。

さて、ここからは俺が直接見たわけでは無いので、空想を交えながら話さなくてはならない。それでいいのだ。これは空想科学小説だから。SFだから。その中でも中途半端なショート・ショートだから。

体育の授業があった。その日の内容は、校庭での2千メートル走だった。当然、顰蹙(ひんしゅく)が体育教師に浴びせられた。皆口さんは、その日体調を崩してたらしく、保健室にいた。

しかし実は、皆口さんは保健室におらず、(病人名簿にも記されていない。)教室で一人、何やら無線機の様な物で通信を行っていたのだ。偶然、いやむしろ必然的にそこを通り掛った加藤先生に問答を受けていたのだ。

「皆口さん、あなたは授業にも行かず、こんな所で何をしているのですか?それに、その機械は何ですか。見せて下さい。フォフォフォフォ」

「くっ・・・・・・逆探されていたとは、もはやこれまで・・・・・・カトウさん、私が地球人でない事はうすうす感付いていたでしょう。」

「その通りだ、私とてそのくらいは気付いていましたよ。ピット星人。」

その瞬間、皆口美佳子の顔は目玉の巨大な、蛇腹状の口、緑色の皮膚というピット星人の顔となった。

「キョキョキョ、甘いわね、バルタン星人。あなた達のその甘さが地球征服を失敗させてきたのよ。」

さらに声にはエコーがかかっていた。

「それは違う、我々は地球人とは友好的に付き合うことに決めたのだ。」

「フッ、洗脳電波をかけなければ成し得ない友情など、この私が引き裂いてやる!」

ピット星人は巨大化した。

突然校舎を割って出現した巨大な宇宙人に俺達は驚愕した。と、同時に、もう一人の宇宙人が出現した。それは、あのバルタン星人だった。

校舎を挟んでの両宇宙人の対決は凄まじかった。しかしバルタンの方が押されている。やはり遠距離攻撃が専門だからなのか。学校から逃げて来る奴、校舎が壊れて喜ぶ奴もいる。校長は発狂する寸前だ。

バルタン星人が火炎弾を撃つ。しかしピット星人はそれを避ける。校舎が壊れる。

「ウルトラマンがいればなあ。」

誰かが発したこの言葉が、やがて皆の共通の意思となった。

「ウルトラマンがいればなあ。」

一筋の光が地上に降り立ち、人の姿となった。

「ウルトラマンだ!」

ウルトラマンはあっという間に2人の宇宙人を光線技で倒し、あっという間に空の彼方へと消えていった。後には、瓦礫の屑と化した学校が残るのみであった。

そして俺は思った。わかるか?何が言いたいのか。一貫性のある常識的な理性なんてものはった2本の鋏が断ち切るということを。知られざる者が名を連ねるという事は只それだけで蝉の抜け殻(空蝉)が庇護されるのに等しいということを。

ごごごごごごごご。

 

Written by ゴウ in 2005年5月2日 / 63 Wiews
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ゴウ

2 Comments

  • sports easter basket 2007年4月13日 at 5:32 PM

    sports easter basket

    Reply
  • ホリィ 2008年3月13日 at 12:20 PM

    先輩、はじめまして!!
    黄金虫~の’彼をみならえ’が大好きです。
    あとタイムマシンの話も好きです。
    3秒後の悪意を消すのだ!!

    Reply
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